6月のおはなし ~山家会~

6月4日は、日本で天台宗を開かれた伝教大師最澄さまのご命日です。

最澄さまが活躍されたのは、いまから1200年ほど前のことです。最澄さまは若くして出家し、近江国分寺の行表(ぎょうひょう)さまを師匠とします。行表さまから学んだことは、『法華経』の教えである「心を一乗に帰すべし」といったものです。
『法華経』は天台宗を始めさまざまな宗派で重視される経典です。大変に長い経典であるため、寛永寺では十数回に分けてお読みしていますが、この経典には最澄さまが師匠から授かった「一乗」が繰り返し説かれています。

「一乗」は「ひとつの乗り物」という意味で、「乗り物」はお釈迦さまのおさとりの境地に行く交通手段。つまり『法華経』はお釈迦さまのおさとりの境地に、「一つの乗り物」によって誰もが行くことができると強調しているのです。

では、誰もがおさとりの境地に行けるのであれば、私たちは特に努力しなくてもいいのでしょうか。お釈迦さまは80年の生涯のなか、そのうちなんと45年にわたってさまざまなお経を説いたとされています。なかには誤解を招きやすいことや、勘違いをする人々もいたことでしょう。そうしたなか、お釈迦さまは誰もが自分の考えを理解できるよう、あらゆる表現で説法を続けられたのです。こうして『法華経』が説かれたのは、もう誰もお釈迦さまの説法を誤解しないようになった時期と考えられているのです。そのため、今までのような努力をそのまま続けることで、「ひとつの乗り物」に乗ることができるという考え方が大切にされたのです。

こうした教えを広めるため、最澄さまは生涯にわたって『法華経』を大切にされました。そのため最澄さまのご命日に、寛永寺では例年『法華経』の教えについての問答形式の法要を行うことで、最澄さまのご恩に報いる法要を行っているのです。


若き日の伝教大師像